山下司法書士事務所のブログ

長野市篠ノ井にある,山下司法書士事務所のブログです。(Web:https://yamashitashiho.com/)

嫡出推定制度の変更と懲戒権の廃止

本年4月施行の民法改正のうち,すでに懲戒権が廃止されています。
懲戒権の内容は以前ブログで説明したことがあります。
(当ブログ:「懲戒場とはなんだ」)

懲戒権は,令和4年法律第102号の民法改正により,廃止されていますが,この同じ法律改正に基づき,本年4月施行により「嫡出推定」制度が新制度に移行します。

変更点は,
 ・婚姻の解消から300日以内であっても,母の再婚後に生まれた子は,再婚後の夫の子と推定(民法第772条第1項,第3項)
 ・女性の再婚禁止期間を廃止(民法第733条削除)
 ・嫡出否認権を「子」と「母」,親権つきの「養親」,「未成年後見人」,「前夫」にも拡大(民法第774条第1項から第3項)
 ・嫡出否認の訴えの出訴期間を1年→3年に伸長(民法第777条)
(参考:法務省民法等の一部を改正する法律について」)

また,本法律施行の1年以内は,施行前に生まれた「子」や「母」も,嫡出否認の訴えを提起して,血縁上の父ではない者が子の父と推定されている状態を解消することができるようです。(令和4年法律第102号改正民法 附則第4条第2項後段)
嫡出否認には,期間制限があり,訴え(訴訟の提起)が必要なので,弁護士,司法書士等にご相談ください。

ただし,嫡出否認の訴えは,従前の判例で血縁関係がなくても,親子関係が取り消せなかったり,意見の分かれる判断が生じているため(例:平成26年7月17日最高裁判決  親子関係不存在確認請求事件),場合によっては,個別の事情に基づく判断となるかもしれません。

相続登記義務化による過料のお知らせがやってくるかも

相続登記義務化に伴い,相続登記をしておかなければ,いつか過料のお知らせがやってくるようです。そこで,この過料事件の手続きについて確認してみましょう。

登記の法律に基づく過料となる違法行為が法務局により発見された場合には法務局の登記官から地方裁判所に通知されます。
(不動産登記規則第187条,商業登記規則第118条)

違法行為の嫌疑をいだくきっかけを「端緒」(たんちょ)といいますが,相続登記義務化に伴う端緒については,通達により,以下に定められています。

  1. 相続人が遺言書を添付して遺言内容に基づき特定の不動産の所有権の移転の登記を申請した場合において、当該遺言書に他の不動産の所有権についても当該相続人に遺贈し、又は承継させる旨が記載されていたとき ↩︎
  2. 相続人が遺産分割協議書を添付して協議の内容に基づき特定の不動産の所有権の移転の登記を申請した場合において、当該遺産分割協議書に他の不動産の所有権についても当該相続人が取得する旨が記載されていたとき ↩︎
    令和5年9月12日 法務省民二第927号 民法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(相続登記等の申請義務化関係(通達)】

この端緒後,登記官は「申請の催告」(相続登記の申請を促す)をするようです。催告後に申請をしたり,一定の正当な理由(相続人多数,相続人の争い,重病,DVによる避難,経済的困窮等が挙げられています)があれば,過料制裁は受けないとのことです。

登記官の催告に基づいて申請を行ったり,経済的困窮を理由としてできない旨を回答すれば,過料制裁を逃れることができるため,「3年以内」という期間制限(改正不動産登記法第76条の3第1項,第2項)の実効性は,やや疑問が残るところです。

相続登記義務化の期限

相続登記の登記義務の期間について,整理しました。

相続登記義務化の法律が本年4月から施行されます。このルールには罰則規定があり,登記が遅れると10万円以下の過料を受ける可能性があります。

この義務の「期限」に関する問い合わせが多いため,一応メモとしてまとめました。
(4月施行以降に通達等で変更される可能性はあります。)

3年は,「相続の開始」と不動産を相続で「取得」したことを「知った日」から起算(改正不動産登記法 第76条の2第1項)
 不動産の存在を知らなかったり,被相続人と離れて生活していて,相続開始を知らなかった場合には,被相続人の亡くなった日が「知った日」とはなりそうもないです。

遺産分割協議があった場合には,「遺産分割をした日」から3年以内
(同条第2項)

本年4月1日より前に相続を知ったものについては,施行日から3年の「令和9年3月31日」まで
 (令和三年四月二八日法律第二四号 改正不動産登記法 附則第5条第6項)
 法律改正前の相続については,「知った日」か「施行日」のいずれか「遅い日」になります。

つまり,現在相続の登記をしていない不動産の登記の期限は,3年後に到来することになります。

ISO品質管理は経営者をゆううつにさせるらしい

ISO9001は製造業を中心に会社が認証を受けています。中小企業においても品質管理の国際標準化の波に乗らなければならず,ISOの認証を受けている会社も多いかと思います。

ISOは品質管理の9000系,環境の14000系,情報セキュリティ管理の27000系等いずれの規格も「規格の標準化」や会社のさまざまな「仕組み」を規格のモデルにあわせることを目的とするため(参考 一般財団法人日本品質保証機構:「ISOの基礎知識」),実質主義的な会社経営と,「形式主義」的なISO運営との乖離が生じやすく,ISOの運営がきつくなるようです。

特に中小企業の会社経営者や一部の上層部がISOの規格の認証を得るために努力を重ねてしまうことにより,かえってISOをほとんど知らない社員にとって,仕事の運営に対する障害に思われてしまい,社内で軋轢が生じることもあります。
また,認証の維持にコストがかかったり,文書管理が煩雑になりがちです。
(参照 日経XTECH「ISO9001を活かす会社,活かせない会社」)

実際,何人かの経営者様には,「ISOはものすごく大変だった」という声を多くあります。ISOをやめてしまう理由としては,「費用面」と「余計な仕事が増える」というものが多いようです。
(参考:社団法人 中小企業診断協会 長野県支部平成 21 年度 調査・研究事業
ISOマネジメントシステムの有効活用に関する調査研究 報告書
」)

製造業の経営者は,退任するとISOの運用から解放されたと思うようです。しかしながら,ISOの認証は会社にとって「役にたった」しているところが圧倒的に多いのも事実です。
(参考 三菱UFJリサーチ&コンサルティング社「コンサルティングレポート『ISO による活動成果と今後の経営課題に関する調査アンケート』結果報告」)

会社内でISOに適した社員を選出し,ある程度社員に運営を分散して,ISOの維持管理につなげられたら良いかと思われます。

新株予約権(ストックオプション)が未上場会社で発行を容易に

現行,非公開会社の新株予約権の発行と権利行使価格の決定等には株主総会の特別決議の必要があるところ,未上場のスタートアップ企業には「権利行使価格」と「取得可能期間」を取締役会で決められるよう緩和することが検討されているようです。
日本経済新聞:「未上場の新興企業、株式購入権の発行容易に」)

新株予約権は,税制適格ストックオプションの制度の行使期間の伸長がされており,
経済産業省:「ストックオプション税制」)
今後,年間の限度額の上限引き上げが検討されているようです。
日本経済新聞:「ストックオプションの税優遇、年3600万円に上限引き上げ」)

新株予約権は,行使価格や取得可能期間によっては,他の株主や新株予約権者と比較して有利発行となるおそれがあるため,既存の株主利益のためにも慎重であってほしいものです。

定款作成支援ツールで会社設立も楽々

多少,知識が必要なので,会社設立は専門家(司法書士等)にご依頼いただければと思います。

日本公証人連合会では,「スタートアップ支援のため、定款認証に関する新たな取組を開始します。」というウェブサイトで,「定款作成支援ツール」を提供しています。
日本公証人連合会:「スタートアップ支援のため、定款認証に関する新たな取組を開始します。」)

このツールを使ったところ,当職においては,20分くらいで,定款を作成できました。利用上の注意点としては,
1.エクセルのマクロを有効にする必要がある
2.ファイルのプロパティのセキュリティで「許可する」にチェックする必要がある(Window10以上)
です。

あくまでも,定款と実質支配者の申告書の作成のみができ,以後の電子署名や定款申請等には,別なツールが必要ですが,定型的な株式会社の設立にはこのツールは便利かと思います。ご活用ください。

ブロックチェーン上の消せないデータ

消せないということは,ブロックチェーン技術が存在している限り,もっと懸念されるのは,人類が存在している限り,消えることがないデータが存在することになりかねません。

今日は,ブロックチェーンでデータが残せる技術についてはなしをします。

ブロックチェーンは,電子上の価値や暗号通貨(ビットコイン等)の取引履歴等の記録を
1.分散して記録し(中央コンピュータに記録を依存しない)
2.消去,改ざんが困難にする
といった特性があります。

この分散記録の技術は,本邦ではウィニーというソフト等で,ソフトウェアの配信を目的として,過去に似たような技術が使われていましたが,ブロックチェーンでは,その技術が進化させ,データの改ざんを困難にすることにより,主な目的として,暗号通貨の運営に利用されてします。

また,最近ではブロックチェーンの技術を使って,古いコンピュータやコンシューマゲーム機(スーパーファミコン等)のソフトの記録等に応用することもできるようなったようです。
(参考:コインテレグラフジャパン「ビットコインブロックチェーンでスーパーファミコンのゲームを記録 プレイも可能に」)

古いゲームソフトの記録には,著作権等の問題もありますが,保存するのに改ざん等がなく最適な分,世間から簡単に消せなくなるといった問題が生じることになります。

この「消せなくなる」という懸念は,すでに児童の保護といった分野で問題が顕在化しているようです。
(出典:栗原潔 氏 弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授究極の迷惑行為?:ブロックチェーン上に消せない児童ポルノ」)

中央集中型のデータベースであれば,管理者が消去するといった対応が可能ですが,ブロックチェーン技術は,今後,確実に消すことができるよう課題を解決しなければ,脅迫や詐欺の温床になることや著作権違反等著しい権利の侵害が発生するおそれがあることを忘れてはいけません。